数的にひとつであるもの。とりわけ、類や種といった普遍では把握できない特殊な存在を指す。また、近代以降、共同体や国家とは区別された主体としての個人を意味するようになった。ボエティウス(Anicius Manlius Severinus Bothius 480~524/5)が、ギリシャ語の「分割できないもの」(アトム atomon 希)を個物(individuum 羅)と翻訳したのが由来。
アリストテレス(Aristotels BC384~322)は、個体(個物)こそが第一実体、すなわち真に存在するものだとした。それは、形相と質料からなり、つねに主語となり述語にはならない基体である。中世の普遍論争においては、個体化の原理が問題となった。トマス・アクィナス(Thomas Aquinas 1225~74)は、個体は形相ではなく質料によって区別されなければならないと説いた。これに対して、ドゥンス・スコトゥス(Johannes Duns Scotus 1266~1308)は、このもの性(haecceitas 羅)という形相によって個体化がなされるとし、オッカム(William of Ockham 1288~1348)は、唯名論の立場から、個体化の原理そのものを否定した。
近世以降では、ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz 1646~1716)が、モナド(monade 仏)と呼ばれる個体が実体であるとし、それは個体に起きるすべての出来事を含み、世界をおのおのの視点から映す鏡であると考えた。ショーペンハウアー(Arthur Schopenhauer 1788~1860)は、現象の形式である個体を超えて、物自体としての意志へといたらねばならないとした。