推論方法は演繹と帰納に大別できる。数学のように一般的な命題や法則からより個別具体的な命題や定理を導くことを演繹といい、われわれが実際に経験するような個々の個別事例から共通する性質や関係を取り出し、一般的な命題や法則を導き出すことを帰納という。帰納法という推論手段は古代より用いられてきたが、それは事例を単純に枚挙するものにかぎられていた。しかし、単純な枚挙によっては、諸事例に共通する性質のうちに本質的なものと非本質的なものとを区別することができず、一般法則を作るに際して憶測や先入見が混入してしまう恐れがある。ベーコン(Francis Bacon 1561~1626)は、経験的諸事実から適切な一般法則を得るには「真の帰納法」によらねばならないと主張したが、その方法論が完成するのは19世紀のハーシェル(John Frederick William Herschel 1792~1871)やミル(John Stuart Mill 1806~73)の仕事を待たねばならない。しかし、たとえ適切な方法論と多くの個別事例による裏づけがあったとしても、18世紀にヒューム(David Hume 1711~76)が指摘したように、帰納的推論によって得られる結論は必然的なものではなく、蓋然的なものにとどまらざるをえない。一方、演繹においては前提とされた一般命題から論理的に帰結してくるものしか得られず、演繹法だけで経験的諸事実から一般法則を手に入れることはできない。帰納と演繹はそれぞれに不十分な点があるとはいえ、われわれの推論実践の必要不可欠な両輪である。例えば、自然科学においては、いくつかの経験的事実から基本的仮説を帰納的に導き出し、その基本的仮説から演繹的に具体的な命題を導き出したうえで、観察や実験によりその具体的命題を検証する方法がとられる。こうした方法は仮説演繹法(hypothetico-deductive method)と呼ばれる。