観念形態あるいは意識形態と訳され、多様な意味をもつ。一般的には思想傾向、とくに政治的、社会的な思想傾向を意味する。狭義には、社会的、歴史的に制約された意識や観念のあり方を示す。それゆえ、ある意識形態をイデオロギーと名指すことは、それが帯びる社会的、歴史的制約(虚偽性、階級性、権力装置との共犯性など)を指摘することであり、意識形態のそうしたあり方を暴露することはイデオロギー批判と呼ばれる。
イデオロギーという言葉は、フランスの啓蒙思想家であるデステュット・ド・トラシー(Destutt de Tracy 1754~1836)が、観念の起源を探究する学問という意味で用いた観念学(idologie 仏)に由来する。しかし、今日的な意味でのイデオロギーの用語法を確立するのに貢献したのは、マルクス(Karl Marx 1818~83)やエンゲルス(Friedrich Engels 1820~95)である。エンゲルスはイデオロギーを虚偽意識と呼んだ。マルクスは宗教、芸術、哲学などの意識形態をイデオロギーと呼び、それらが社会の上部構造に属し、下部構造である経済によって決定されると説明した。マルクス以降さまざまなイデオロギー論が生みだされた。思考の存在拘束性という視点から知識社会学を展開したマンハイム(Karl Mannheim 1893~1947)のイデオロギー論や、国家の「イデオロギー装置」の存在を指摘したアルチュセール(Louis Althusser 1918~90)のイデオロギー論などが有名である。ベル(Daniel Bell 1919~2011)は、1950年代以降欧米の先進諸国が経済的に豊かになるにつれ、社会変革を導く思想という意味でのイデオロギーは失効したとする「イデオロギーの終焉」論を唱えた。