(1)対象説
ことばの意味とはその指示対象(referent 英)だとする説。たとえば固有名「プラトン」の意味とは、プラトンその人である。ミル(John Stuart Mill 1806~73)、ラッセル(Bertrand Russell 1872~1970)、ウィトゲンシュタイン(Ludwig Wittgenstein 1889~1951)などによって唱道された。この考えを、固有名だけではなく述語にも拡張すれば、その外延(その述語があてはまる対象のあつまり)を割り当てることで述語の意味があたえられることになる。これは、現代の述語論理学の標準的な意味論の考え方である。
(2)観念説
ことばの意味とは、それにむすびつけられた心的な観念(idea 英)だとする説。アリストテレス(Aristotels 紀元前384~前322)以来の伝統的な考え方であり、その唱道者としてロック(John Locke 1632~1704)などが有名だが、ウィトゲンシュタインやパトナム(Hilary Putnam 1926~)によって徹底的に批判された。とはいえこの考え方は、チョムスキー(Noam Chomsky 1928~)の言語の生得説などを背景にフォーダー(Jerry A. Fodor 1935~)によって「思考の言語」仮説という形で現代によみがえり、活発な論議をよんでいる。
(3)真理条件説
文の意味とは、それが真となるための条件(真理条件 truth condition)だとする説。フレーゲ(Gottlob Frege 1848~1925)は、文がもつ真理値への寄与という統一的な観点から、文を構成する各語の意味を規定する体系的意味論を史上はじめて構成した。ウィトゲンシュタインは「真理条件」ということばを使ってこの考えを明確化し、デイヴィドソン(Donald Davidson 1917~2003)はタルスキ(Alfred Tarski 1902~83)の真理論を流用して自然言語の体系的意味論を真理条件的意味論として構築する構想を立てた。しかし、言語習得や言語理解という実践的な見地、あるいは真偽を決定するための認知的能力という見地から根本的な批判をうけている。対案としてウィーン学団の意味の検証理論、後期ウィトゲンシュタインの意味の使用説、ダメット(Michael Dummett 1925~2011)の主張可能性条件意味論などがある。
(4)意味にかんする懐疑論
クワイン(Willard Van Orman Quine 1908~2000)は、「翻訳の不確定性」テーゼにおいて、観察可能な証拠のみに基づくかぎり文の意味を一意的に特定できるとはいえないと主張した。クリプキ(Saul A. Kripke 1940~)は、だれかが或ることばでなにかを意味すると語る文には真理条件的意味論を適用できない、という主張を後期ウィトゲンシュタインに帰した。デイヴィドソンは、コミュニケーションが成功するために本質的なのは、社会的に共有された規約などではなく、そのつどの現場においてみずからの意味理論を相手の発話を理解できるよう修正していく個人的なスキルのみだと主張した。