現在ではときに広義で用いられ、既存の社会や文化等に対して批判的な立場をとる諸理論を包括的に指すこともあるが、多くの場合は限定的に、いわゆる「フランクフルト学派」の社会哲学的な思想を指す。元来は「批判的な社会理論」(kritische Theorie der Gesellschaft 独)の意味。フランクフルト学派とは、1923年フランクフルト大学に設置され、第二次世界大戦をはさむ亡命期間を経て再建された「社会研究所」に関与した一群の思想家たちを指し、その第一世代には、ホルクハイマー(Max Horkheimer 1895~1973)、アドルノ(Theodor W. Adorno 1903~69)、マルクーゼ(Herbert Marcuse 1898~1979)、フロム(Erich Fromm 1900~80)、ベンヤミン(Walter Benjamin 1892~1940)らが、第二世代にはハーバーマス(Jrgen Habermas 1929~)、第三世代にはホネット(Axel Honneth 1949~)らがいる。なお批判理論は、狭義にはホルクハイマーとアドルノ、特に1930年代から40年代初頭におけるホルクハイマーの思想を指して言われることもある。
ところで、フランクフルト学派としてくくられる思想家たちの思考には多様な差異があり、そこに一貫した共通の枠組みを見いだすことは難しい。とはいえ特に第一世代においては、大まかな傾向として、「経済学批判」としてのマルクスの社会批判の視点を引き継ぎながら、一方ではヘーゲル等のドイツ古典哲学を、他方ではヴェーバーの合理化論、またとりわけフロイトの精神分析学を統合的に受容し、哲学・社会学・美学等の多様な領域にまたがって、現存する社会と文化を総体として批判的に把握しようとするあり方(後のハーバーマスの言葉を用いれば「学際的唯物論」)が志向されていたといえる。批判理論は、戦後のアドルノの思考においては「否定弁証法」という徹底した哲学的批判の営みへと先鋭化されることになるが、その後のハーバーマスの思考にあっては「コミュニケーション的合理性」に依拠した包括的な社会理論へと組みかえられることになった。