規範倫理学の主要な立場の一つ。道徳の基準として、行為が「義務」に適っているかに注目する義務論や行為の帰結に注目する帰結主義のような行為中心の倫理学理論に対して、行為者の徳(アレテー aret 希)、すなわち優れた性質・卓越性に着目するところに特徴がある。20世紀の後半以後、古代ギリシャ哲学、とりわけアリストテレス(Aristotels 紀元前384~前322)の思想を参照して練り上げられた。現在では、規範倫理学のみならず応用倫理学においても存在感を示している。
アリストテレスは、徳を、理性固有の優れた性質で教育によって獲得される「知性的徳」と、情念のような魂の非理性的な部分を理性に従わせて行為する性質である「倫理的徳」とに区別した。倫理的徳は、過度も不足も避けた情念や行為の「中庸」とも言われ、訓練や習慣づけによって獲得される。正しい行いを実践するためには、知性的徳と倫理的徳の両方が必要であり、両者を媒介する実践知(フロネーシス)の働きが重要になる。徳の実践は、理性に適って善く生きること、すなわち幸福な生(エウダイモニア)の達成に必要だとされる。
徳倫理学者の多くは、このようなアリストテレス的な徳、実践知、幸福といった概念を用いており、代表的な論者として、フット(Philippa Foot 1920~2010)、マッキンタイア(Alasdair MacIntyre 1929~) 、ハーストハウス(Rosalind Hursthouse 1943~)などが挙げられる。