ゴルトン(Francis Galton 1822~1911)が、19世紀中葉イングランドで提唱。優生学の目的は遺伝的に受け継がれる人間の性質(知性、健康、性格など)の改良にあった。学としての優生学は、勃興しつつあった遺伝学の一種と考えられ、積極的に統計的分析を取り入れた点に特徴がある。
「人間の品種改良」を基本的な着想とする優生学は同時に社会政策の提言でもあった。その側面においては、遺伝的な性質において「望ましい」カップルに結婚を奨励し、子供を産むよう援助する積極的優生学と、逆に「望ましくない人々」の生殖削減策を軸とする消極的優生学に区別される。
優生学は、ゴルトン自身の試みを含めて、優生学運動として後に世界各地に伝播(でんぱ)していった。だが、歴史上実現したのは消極的優生学のみであり、具体的手法には障害者への強制的な断種といった人権侵害が含まれていたことが、多くの批判を招くことになる。この文脈でナチス・ドイツの障害者安楽死計画が論じられることも多い。
1990年代以降、治療目的ではなく生体機能の強化のために遺伝子を改変する遺伝子操作(エンハンスメント)によって「望ましい」子供を産み出すことを目的とした積極的優生学が登場している。これをリベラル優生学と呼ぶ。旧来の優生学との違いは、リベラル優生学がナチスの蛮行を批判し、国家による強制一般を廃して、個人の「自己決定」に基づく優生学であることに求められる。
以上の狭義の優生学とは一定程度別個に、出生前診断とそれに基づく選択的中絶にはつねに優生学的な発想、つまり優生思想の嫌疑がかけられている。すなわち、エコー検査などで胎児にダウン症などの染色体異常が発見されたとき、出生後に負うと予想される障害を忌避するという理由で中絶に及ぶのは、人間の命の質に区別を設けて障害者の生を劣った生だと決めつけているのではないかという疑いである。