物神崇拝。シャルル・ド・ブロス(Charles de Brosses 1709~77)の造語で、アフリカで礼拝されていた崇拝物である「フェティッシュ」(Ftiches)に由来する。ド・ブロスは、偶像崇拝とフェティシズムを区別し、前者が不可視の神の代理物・象徴を崇拝する宗教の一形態であるのに対して、後者は可視的な対象そのもの(たとえば、山や海、石、植物、動物など)を崇拝する宗教以前の信仰であり、人類に普遍的に見られる原初的な精神構造である、とした。これに対して、デュルケーム(mile Durkheim 1858~1917)は、氏族に固有の事物・動植物(トーテム)を崇拝するトーテミズムをフェティシズムの特殊な類型と見る立場を批判して、トーテミズムこそが宗教の原初的な信仰であり、フェティシズムはあくまである程度発展した民族において現れると主張した。
この言葉は、マルクス(Karl Heinrich Marx 1818~83)によって、経済学批判のために用いられることになった。マルクスは、貨幣が人間の本質を外化し倒錯させることで神のように扱われること、またさらに、労働の生産物が社会的関係を反映することによって使用価値と価値を合わせもつ「感性的に超感性的な事物」すなわち商品として現れることを、フェティシズムと呼んだ。また、フロイト(Sigmund Freud 1856~1939)は精神分析にこの言葉を導入した。フロイトによれば、フェティッシュとはペニスの代替物(たとえば、女性の足や靴、下着、毛皮など)であり、フェティシズムは去勢の否認と承認が混交した態度であるとされる。