通常、「無政府主義」と訳される。国家や社会、宗教といったあらゆる権力・権威による支配を認めず、個人の自由に最も価値を置く立場。19世紀以降の革命運動の中で、平等を重視する社会主義と自由を重視するアナーキズムは、資本主義の打倒という目標を共有しつつ、しばしば対立した。「アナーキー」という語は、ギリシャ語のanarkhia(an-~ない、arkhia支配)に由来する。近代的なアナーキズムの理論的創始者と一般的に目されるのは、国家の不要、裁判所の廃止、共産主義を説いたゴドウィン(William Godwin 1756~1836)である。
しかし、国家権力による支配の撤廃という意味でこの言葉を初めて用いたのは、プルードン(Pierre-Joseph Proudhon 1809~65)である。プルードンは、各人による各人の統治、自己統治としての自由を尊重し、これを否定する国家や政府を革命によって取り除くことを主張し、さらには、その悪平等ゆえに労働者によるアソシエーションをも批判した。その思想は、パリ・コミューンの指導者たちに大きな影響を与え、天上の神と地上の国家という絶対的権威を悪とし、個人の自由を善の源泉とみなしたバクーニン(Mikhail Alexandrovich Bakunin 1814~76)や、相互扶助によって個人が個性を発揮できる無政府共産主義を理想としたクロポトキン(Pjotr Aljeksjejevich Kropotkin 1842~1921)へと引き継がれていった。
アナーキズムはまた、20世紀以降に盛んになった労働組合運動であるサンディカリスムと結合し(アナルコ・サンディカリスム)、フランスやスペインで勢力を広げた。日本のアナーキストとしては、ゼネストによる直接行動を訴え、大逆事件で処刑された幸徳秋水(1871~1911)や、共産主義のプロレタリアート独裁に反対してアナボル論争を引き起こし、甘粕事件で殺された大杉栄(1885~1923)が代表的であるが、両者の死後、日本におけるアナーキズムは急速に力を失っていった。