文脈により様々な意義をもちうるが、とくに実践哲学(倫理学・社会哲学等)や政治理論において重要な意味をもつ語。その場合、基本的には、あるもの(人や集団)が他者(他人や他の集団)を積極的に是認し、その意志・権利や価値などを肯定・尊重するような実践的態度を意味する。しばしば、人格や「自己」、共同体・文化等の成り立ちやアイデンティティーを、他者との関わりのなかで相互主体的・社会的な形でこそ可能になるものとして把握するうえでの鍵概念となる。
この語は哲学的な術語としては、フィヒテ(Johann Gottlieb Fichte 1762~1814)により初めて、法的な関わりの基盤を説明する際に用いられたが、後世により強い影響を与えるかたちで承認の概念を展開したのはヘーゲル(Georg Wilhelm Friedrich Hegel 1770~1831)である。ヘーゲルの思考の基調をなすのは、自由な主体の自己意識、その自覚的な存在が現実的に可能であるためには、他者によって承認されること、そしてまた、他者を自由な主体として承認することが、ともに不可欠であるという視点である。そうした「相互承認」についてヘーゲルは、「承認をめぐる闘争」といった諸々のプロセスを通じてこそ可能になるものとして考察しつつ、それが実現される具体的な場面についても多様な思考を行い、とくに「人倫的共同体」のうちにその現実的な場を見いだした。
ヘーゲルの承認論は後に様々な影響をもたらしたが、たとえばサルトル(Jean-Paul Sartre 1905~80)は「承認をめぐる闘争」を独特の仕方で解釈し、自他関係を「相剋」として把握した。現代では、とくに社会哲学や政治理論の領域において、承認概念が論争的な鍵概念となっている。まずたとえば、「承認の政治」についてのテイラー(Charles Taylor 1931~)の立論に見られるように、多文化主義や差異派フェミニズムにおいてはしばしば、個々人の諸権利の平等化を目指す「普遍主義の政治」が批判され、異なる個人や集団、その多様な生や文化をそれぞれ固有のアイデンティティーや特異性において積極的に是認し擁護すること、つまり「差異の承認」へと向かう承認の政治、ないし「差異の政治」が主張されている。また現代のフランクフルト学派の理論家たち、とりわけホネット(Axel Honneth 1949~)は、相互承認や「承認をめぐる闘争」に関するヘーゲルの思考を批判的に継承して、現状の変革を志向する社会運動にも接合しうるかたちに組みかえ、承認概念の多様な分節化を行いつつ、「承認の批判理論」を展開している。