「意識されないもの=無意識」の作用によって作られるものの成因は、直線的な原因―結果関係で記述することはできず、少なくとも二つ以上の潜在的な思考の影響を受けて形成されることを示す精神分析(学)の概念。フロイト(Sigmund Freud 1856~1939)は夢に現れる形象を成立させる原因を探求する過程でこの概念を用いたが、ジャック・ラカン(Jacques Lacan 1901~81)はそれを言語構造に由来する特性として示してみせた。だが、「重層決定」を重要な鍵概念としたのは、構造主義的な観点からマルクス主義を再構築したルイ・アルチュセール(Louis Althusser 1918~90)であった。アルチュセールは、ラカンの精神分析を独自に解釈しながら、それを社会理論に応用した。
様々な矛盾を止揚させて展開される歴史の弁証法は、ヘーゲルにおいて論理的な過程によって説明される。だが、マルクスにおいてそれは、社会=経済において複雑に絡み合った諸矛盾の展開と考えられているとアルチュセールはいう。「矛盾は社会全体の構造から切り離すことができず、(様々な社会的立場にある人や物事の)存在の形式的な諸条件、およびそれが支配する諸審級から切り離すことができない」(アルチュセール『マルクスのために』1965)。こうしてアルチュセールは、「意識されないもの」の領域で機能する社会変革の胎動を構造主義の道具立てを用いて分析し、マルクスを新しく解釈してみせたのである。