神は宇宙全体と同一であるという思想上の立場。汎神論という名称は18世紀に初めて登場したといわれている。もっとも、宇宙の無限性を積極的に擁護したルネサンス期のブルーノ(Giordano Bruno 1548~1600)が後に汎神論者とみなされたように、この傾向の哲学者は古代から存在していた。
西洋哲学における汎神論の代表的な人物はスピノザ(Baruch de Spinoza 1632~77)である。スピノザ形而上学は自己原因である神を存在する唯一の無限実体と考える一元論である。「神即自然」というスピノザの言葉は、神を自然あるいは宇宙そのものと同一視するその特徴を典型的に表現している。
スピノザ哲学に対する理論的な批判は、ほとんどすべて汎神論に対する宗教的な論難に直結している。たとえば、神が自然と同じものであれば、神は物質的な存在者となるはずであり、それはすなわち神を冒涜(ぼうとく)するものにほかならないなどと非難されるのである。かくして汎神論はつねに偽装した無神論との嫌疑にさらされてきた。
スピノザ哲学は18世紀ドイツの「汎神論論争」において哲学史上再発見され、ドイツ観念論、ドイツロマン主義に多大な影響を与えている。たとえば、シェリング(Friedrich Wilhelm Joseph von Schelling 1775~1854)のある時期の哲学も汎神論的な論調をみせており、また文豪ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe 1749~1832)は汎神論に親和的な著作を著している。