殯とは古代日本における葬送儀礼の一部で、人間が息を引き取ってから埋葬されるまでの一定期間、遺体を棺(ひつぎ)に納めて喪屋(もや)や殯屋(もがりや)、霊屋(たまや)、阿古屋(あこや)などと呼ばれる仮屋に安置し、種々の儀礼を行う。現在の通夜の起源とも言われる。「魏志倭人伝」には、邪馬台国の葬送習俗として、死から埋葬までの10日間ほど、喪主は泣き、参集者は歌舞・飲食をしたことが記されており、王から庶民に至るまで殯が行われていたことがわかる。殯は死者の遊離した霊魂を呼び戻して再生を願う招魂(たまふり、魂振とも書く)の儀礼と、死者に悪霊が取りついて災いを及ぼすのを防ぎ、死者の霊を慰撫する鎮魂(たましずめ)の儀礼からなっていると考えられている。646年(大化2)に、天皇以外の殯は禁止されたが、一般民衆の葬送儀礼では続けられていた。沖縄では、明治初期あたりまで、喪屋を建て、遺族が棺を開けて遺体を数年間見守る習俗があったが、不衛生だとして禁止された。本土では、昭和天皇の大喪(たいそう)で、殯宮(ひんきゅう)が建てられたように、現在は天皇の葬送儀礼でだけ行われている。