ニート(NEET)とは、就学も職業訓練も(結婚も――主に女性の場合)していない若年の無職者(not in education,employment or training)をいい、たいていは親がかりか、誰かからの何らかの援助で生活している、ときにはパラサイトシングル的に生家に寄生状態にある人を含むこともある。
昔から芸術家、文学者を志望している人間には、ニート的な傾向が強く、ボヘミアン(bohemian)と称する文学青年などはこうしたタイプが多かったが、現在のニートは、こうした脱俗的な志向はなく、単に学校にも行きたくなく、就職もしたくないという無職者のことをいう。学生の延長として、〈何もしてない〉若者層は、団塊の世代・二世(団塊ジュニア)が社会に出るようになってから目立ち始め、また、アルバイト、パートなど、正規の職業人ではなく、腰掛けの姿勢のまま社会に出ているフリーターの立場の層も多い。
こうしたニート、フリーターたちが登場人物となったり、小説家自身がニート的、フリーター的存在である文学作品、小説作品を「ニート文学」と呼んだり、「フリーター小説」と呼んだりする。新人賞に応募してくる作品には、ニートやフリーターを登場人物としたものが多く、多くは作者自身の環境を反映したものと思われる。ただし、意識的に「ニート」をテーマとする絲山秋子の『ニート』(2005年)のような作品もある。高校卒業以来、進学もせず、一度も就職もせずに、自宅に引きこもって小説を書いてきたという田中慎弥のような作家が、08年に『切れた鎖』で三島賞を、『蛹』で川端賞をたて続けに受賞したという現象も、ニート文学が、文壇的に公認のものとなったことを意味しているのかもしれない。