2010年上半期の芥川賞は赤染晶子の「乙女の密告」に、直木賞は中島京子の「小さいおうち」に決定した。「乙女の密告」は、関西の大学でドイツ語を学ぶ女子大学生であるみか子を主人公に、「変なガイジン」であるバッハマン教授などとの絡み合いを描いたもので、「アンネの日記」を下敷きとした知的な企みに富んだ作品であり、ユーモアのセンスもあって、高い評価を受けた。「小さいおうち」は、昭和初期のプチブルジョアといえる家庭を舞台とした小説だが、レトロな生活感覚の再現ということで評価された。下半期は、芥川賞の万年落選候補だった島田雅彦が芥川賞の選考委員となり、「異色の人事」ということで話題となった。その新選考委員も加わった選考会では、ほぼ満場一致で朝吹真理子の「きことわ」が選ばれ、さらに特異な私小説作家・西村賢太の「苦役列車」が選ばれた。慶応の大学院で近世文学を専攻する朝吹(父親は詩人の朝吹亮二)の「美女」に対し、中卒でフリーター生活、酒乱という西村の「野獣」ぶりが、取り合わせの妙として話題となった。直木賞は、今回から伊集院静と桐野夏生の2人が新選考委員として加わり、芥川賞と同じく木内昇(のぼり)の「漂砂のうたう」と道尾秀介の「月と蟹」の二作同時受賞となった。