自然科学の実証性を文学に導入しようという運動。19世紀末、フランスの作家エミール・ゾラがロマン主義への異議として提唱した。日本では、田山花袋の「蒲団」が自然主義の文学作品の嚆矢(こうし)とされる。社会の現実、人間の真実を客観性によって描くという触れ込みだが、のちには貧しさや悲惨さ、人間の獣性などの暗黒面を描くことが自然主義であると俗化された。こうした自然主義文学を批判して、対立的に立てられたのが反自然主義。フランスではシャルル・ボードレールに始まる象徴主義などを生んだが、日本では自然主義派の単なるアンチテーゼにしかすぎなかった。初期の夏目漱石とその門下らによる余裕派、高い知性と教養に基づく森鴎外、堀口大学らの高踏派、人道主義・理想主義を掲げた武者小路実篤、志賀直哉らの白樺派、そのアンチとして芥川龍之介や菊池寛らが進めた新現実主義(新思潮派)、永井荷風から谷崎潤一郎に連なる耽美主義(→「写実主義/ロマン主義」)などが、これに含まれるとされる。