ともに19世紀ヨーロッパに起こった美術・文芸運動。現実をありのまま描くという写実主義は、現実主義(リアリズム)や自然主義につながり、個人の感性や美に重きを置くロマン主義は、美を最高の価値とする審美主義や耽美主義ともつながる。写実主義は、日本では坪内逍遥が「小説神髄」(1885~86年)で唱え、田山花袋などの自然主義から、作家が自身の体験を赤裸々に描く私小説、そして社会主義・共産主義思想に基づく社会変革を目指すプロレタリア文学へと変貌した。一方、ロマン主義(浪漫主義)は、森鴎外などが日本に導入し、北村透谷の詩や永井荷風の初期作品、泉鏡花の幻想小説などを経て、倒錯した性愛や女性崇拝を高い表現力で描く谷崎潤一郎の耽美主義、悪魔主義へとつながっていく。島崎藤村のように、初期には「若菜集」(1897年)などでロマン主義的な詩歌を発表し、後年「破戒」(1906年)や「夜明け前」(1929~35年)のような写実主義(自然主義)的な小説へ転じた例もある。