高松塚古墳(7世紀末から8世紀初頭)とキトラ古墳(7世紀末から8世紀初頃)の四神図・天文図・人物図ほかの壁画は、日本古代国家の思想と技術、またそれを生んだ国際交流について、生き生きと語るものである。この貴重な文化財が劣化して、壁画はぎ取りや石室解体修理が必要とされるに至ったことは大変に残念なことである。文化財の中でも持ち運べる動産文化財(遺物)は、室内で保存処理を行って博物館に展示し現地には複製品をおくが、不動産文化財(遺構)は可能な限り本来あった場所に残しておきたいものである。壁画は不動産文化財に属しながら、発掘による環境変化によって劣化しやすいという難しい事例である。高松塚・キトラ古墳については、劣化の原因を究明するとともに、例外的な緊急避難ではなく、壁画をどのように保存措置することが最善であるかを提言して社会的合意を得ることが必要であろう。不動産文化財の経年変化は、高松塚・キトラ古墳に限った問題ではない。例えば日本には、装飾古墳と総称される、高松塚・キトラ古墳と共通する歴史的意義をもつ古墳が多く存在し、国際的にも多くの壁画文化財があり、その中には劣化が著しいものが少なくない。これらを含めて、どのように最善の保存措置を講じていくかが大きな課題である。