歌舞伎俳優の名跡。屋号は音羽屋(おとわや)。江戸時代から名優を輩出した屈指の名門で、5代目は9代目市川團十郎とともに明治期を代表する名優として、團菊(だんきく)と並び称された。その長男の6代目は、歌舞伎の技法の上に近代的な人間像を表現し、抜きん出た踊りのうまさとともに、現在でも役者や歌舞伎ファンの間では特別な存在として語り継がれる。歌舞伎で単に「六代目」と言うときは彼を指す。1949年没後に文化勲章を追贈。歌舞伎俳優としては初めての受章となった。その養子の7代目尾上梅幸(おのえばいこう 1915~95)は、父の薫陶のもと、折り目正しい歌舞伎芸と舞踊の技術を身につけ、気品あふれる舞台により、6代目中村歌右衛門(1917~2001)とともに昭和後期を代表する女形として活躍した。現7代目菊五郎は、7代目梅幸の長男として1942年に生まれる。前名の尾上菊之助時代には、同年代の市川新之助(12代目市川團十郎)、尾上辰之助(1987年没、3代目尾上松緑追贈)とともに「三之助ブーム」を巻き起こし、NHK大河ドラマ「源義経」に主演して人気を博し、静御前役の藤純子(現富司純子)と結婚して話題を呼んだ。1973年、7代目菊五郎襲名。歌舞伎俳優としては、父譲りの美貌と確かな技芸で女形としての地歩を固めたが、襲名後は立役の比重を高め、6代目同様に「兼ねる役者」としての面目を発揮している。特に江戸前のすっきりした二枚目から小悪党まで、歴代の菊五郎の名に恥じぬ持ち味を見せ、河竹黙阿弥作品には欠かせない存在であるほか、新作や復活にも意欲的に取り組んでいる。2000年日本芸術院会員。03年人間国宝。長男は5代目尾上菊之助(1977~)、長女は女優の寺島しのぶ(1972~)。