歌舞伎の効果・伴奏として、舞台下手の黒御簾(くろみす)内で演奏されるもの。唄(長唄)・合方(三味線)・鳴物(囃子方〈はやしかた〉)からなる。楽器は三味線のほか、大鼓、小鼓、締太鼓、能管、大太鼓、竹笛を用い、時に胡弓(こきゅう)、箏(そう)、尺八が使われることもある。曲目は現行で800以上あると言われ、多岐にわたる。用途も様々で、まず芝居全体の中で、楽屋入りを知らせたり、幕や一日の興行の終わりに必ず演奏されるものがある。幕開き、場面転換、幕切れ、そして各場面の雰囲気にふさわしいものが奏でられるのはもちろん、科白(せりふ)や立ち回り、殺し、濡れ場、せり上がり、だんまりなどの演出の効果を高め、人物や俳優の個性を際立たせる場合もあり、曲目だけでなく演奏の技巧やテンポにもそれぞれに合わせた工夫が求められる。単なる音響効果ではなく、歌舞伎そのものを形作る重要な要素のひとつであり、これに注目することによって観劇の興味も増す。近年は「黒御簾音楽」の呼称が定着している。