スペインのプラド美術館所蔵でフランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco de Goya 1746-1828)の名作として親しまれてきた「巨人」が、実は弟子の筆による作品だったと考えられると、2009年1月、プラド美術館が報告書をまとめた。この作品は、1931年に、プラド美術館に収められたものであり、その当時は、まだ、十分なゴヤ研究がすすめられておらず、さらに、王政や共和制から内乱に向かうスペインの政治的背景も絡んで、十分に鑑定の時間をかけることができなかった。同時に、20世紀の前半から第二次世界大戦をはさんで、ゴヤの芸術は、権力への反抗と闘争、さらに風刺の表れとして、時代の風潮とうまく合っていたと言うことができ、そうした作品の中でもこの「巨人」は、いかにも独立戦争に向かうなかで反体制的なイメージを表していると解釈され、ゴヤは反抗の画家として評価されたのであった。ここへ来て、弟子のサインが認められるなど科学的な検証がなされ、ゴヤの作ではないのではないかという意見が大勢を占めるに至り、ゴヤ像も反抗の画家とは別の見方がなされようとしている。