フランス語で「目をだます」こと。転じてだまし絵の意。通常、見た目に現実と錯覚させるように描いた絵のことを示している。そのことを考えると本物そっくりに描くスーパー・リアリズムなどを思い浮かべることができるが、歴史的に見ると三次元を二次元の世界で復元できれば、という画家たちの探究がまさにトロンプルイユの歩みであったともいえる。西洋美術の歴史で見てもルネサンス以降、線遠近法(透視図法)を駆使して二次元に三次元を再現しようとしたのもだまし絵といってもいいのかも知れない。ただ、一般にだまし絵といった時には、単に遠近法で立体的な空間を再現するといったものを超えて、人の目を驚かすイリュージョンの描写になる絵画のことを指すことが多い。例えばマニエリスムの画家が教会の天井画を描くに際して、ただ空間を再現するのではなく、理想的な天上界を表現するために、真上に奥行きを見せる凝視遠近法などを用いて、現実よりもっと深い空間に描いたり、平面の天井をドーム型に見せることなどは、まさに錯覚をうまく利用した好例である。歴史的に見ればだまし絵には、二重の意味を持たせるダブルイメージの表現も描かれてきており、野菜や花などの集合体で肖像画を描き上げた16世紀のイタリアの画家ジュゼッペ・アルチンボルド(1527~1593)などはだまし絵の画家として著名である。また、一見何が描かれているかわからない不思議な絵柄を、円筒などに投影したり斜め横から見たりすると正しい画像が現れるアナモルフォーシスの技法なども生まれ、やはり16世紀に活躍したドイツ・ルネサンスの代表的な画家ハンス・ホルバイン(子 1497~1543)の「大使たち」などが有名である。また、20世紀に入ると、シュールレアリスムの画家たちによって応用された。なお、2017年6月から9月にかけて、東京の国立西洋美術館で「アルチンボルド」展が予定されている。