日本の近代化に大きく貢献した富岡製糸場(1872年開業)は、1987年に操業を停止してから2005年に富岡市に譲渡されるまで、所有していた片倉工業が大切に保存してきた結果、14年に世界遺産に指定され、観光客が激増した。その玄関口となるのが、上信電鉄の上州富岡駅である。コンペで、建築ユニットの武井誠+鍋島千恵/TNAが設計者に選定され、14年3月に竣工した。下部は製糸場と同じフランス積みのレンガで仕上げ、その上部に鉄骨で持ち上げた水平な板のような白い屋根が軽やかに浮かぶ。エレベーターの維持費がかかる、プラットホームの上に駅舎を持ち上げるタイプではなく、地上に駅舎が設置され、設計者が「街の縁側」と呼ぶように、視線の「抜け」を意識した開放的なデザインとなっている。鉄道会社、行政など様々な管轄の枠を超えて、ホームから駅舎、駅前広場までを一体的にデザインしたことで、街と鉄道の一体感を生みだした。