公共ホールには2006年度から指定管理者制度が導入されたが、滋賀県が所有するびわ湖ホールは、従来通りの「財団法人びわ湖ホール」が指定管理者に指定されて、5年間にわたり年間11億1000万円以上の指定管理料を受け取ることになっていた。しかしながら、滋賀県自体の税収の落ち込みにより、医療福祉サービスの水準維持が難しくなったという理由で、県議会では管理料の削減が議論され、08年度後半は休館にするという意見までが一時は報道されていた。結局この意見は、すでに決まっている演目に対する高額の違約金支払いの問題を生じさせることになるため現実とはならなかったが、管理料自体は1億円あまり削減されることになり、また09年度もさらに額を増した削減が課されることになった。びわ湖ホールは、横須賀芸術劇場や新国立劇場と同様に4面舞台を持つ、本格的な歌劇場である。1998年の開場以来、芸術監督若杉弘の下で創造する劇場を目指して、東京でもできないようなヴェルディの珍しい作品の日本初演や、独自のアンサンブルの結成、子供用のオペラ・プログラムの実施など、多角的な運営を行ってきたが、自主制作のオペラの場合、入場料収入は総経費の4分の1程度でしかなく(これはほぼドイツの国立歌劇場の水準であり、その意味ではけっして悪いわけではなく、10%台に過ぎないフランスや、10%に満たないイタリアの歌劇場に比べれば、はるかに優秀な数値であるのだが)、また県内や関西圏よりも、東京からの聴衆が比較的多く詰めかけることも問題になっていた。県民税を投入して運営する以上、県民からの理解が得られるかは難しい問題である。今回の議論も、そこが発端であった。芸術面での評価は高く、また若杉を継いで2007年から芸術監督に就任した沼尻竜典は、近代作品の上演を意欲的に企画し、第一弾となるツェムリンスキー「王女さまの誕生日」や、続く「ばらの騎士」も好評であっただけに、医療福祉サービスと文化とのせめぎ合いは今後も続く気配であるが、より安価で経済的に運営できる指定管理者を民間に求めるといった議論も出てきていた。運営の効率化が、芸術面での低下につながりかねないことを思うと、これはやはり指定管理者制度の弱みを露呈させる事例となり、全国の同様の公共ホールに与えたショックは少なくなかった。