レースや調教で脚を故障し、回復がきわめて困難な「予後不良」と診断された馬にとられる処置。軽くても400キロ以上、重い馬だと500キロをゆうに超えるサラブレッドが脚部の故障のために長い時間動かないでいると、馬体を支えている残りの健康な脚の蹄(ひづめ)内部に炎症が起こり、激しい疼痛を発するようになる。これが蹄葉炎で、一度発症すると病勢の進行を止めるのは難しく、重症化すればそのまま衰弱死する。また、横たえて治療しても、体の重さで肺や内臓が圧迫されて、馬は長時間苦しみ続け、結果は同じことになる。そうした事情から、回復困難な重傷を負った馬には、安楽死という選択がなされている。レース中の故障で安楽死となった著名な馬にはキーストン(1965年の日本ダービー[→「クラシックレース」]に勝ち、67年の阪神大賞典で故障)、ライスシャワー(92年の菊花賞[→「クラシックレース」]、93、95年の天皇賞・春に優勝し、95年の宝塚記念で故障)、サイレンススズカ(98年の宝塚記念に勝ち、同年秋の天皇賞で故障)などがいる。その一方で、予後不良と診断されながらも関係者の強い願いのもとで手術・治療が続けられた名馬にはテンポイント(77年に天皇賞・春と有馬記念に勝ち、翌78年1月の日経新春杯で故障)、サクラスターオー(87年に皐月賞、菊花賞を制し、同年の有馬記念で故障)がいるが、テンポイントは42日後に蹄葉炎によって衰弱死し、サクラスターオーもまた137日におよぶ闘病生活の末、これ以上苦しめられないという関係者の判断で安楽死の処置がとられた。2013年には、11年の阪神ジュベナイルフィリーズを制したジョワドヴィーヴル、三冠馬ナリタブライアンやG1で4勝したマヤノトップガンなどを輩出した種牡馬ブライアンズタイムなどが安楽死処分されている。