[一言で解説]
人間の細胞の核内にあるDNAの型の違いを利用して、専門家が個人識別を行うこと。
[詳しく解説]
人間のDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列には、同じ塩基配列が繰り返される部分があり、繰り返される回数は人によって異なります。その違いを利用して、たとえば犯人と被告人との同一性を明らかにすることをDNA分析といい、その方法によって証拠調べを行うことをDNA鑑定といいます。アメリカではDNA鑑定が可能な場合は、被告人にDNA鑑定を受ける権利が認められています。同じ型の別人が現れる確率は4兆7000億人に1人と言われ、指紋による誤受入率が10万分の1であるのに比べ、精度の高い個人識別方法であると信じられてきました。しかし、このような「DNA鑑定神話」が支配するなかで、えん罪となった足利事件はその神話に一石を投じました。当時のDNA鑑定では、犯人と同じDNA型の人は300人もおり、菅家利和さんはその1人に過ぎませんでした。このことは再審の公判で警視庁科学警察研究所(科警研)の所長が証言しています。また、当時のDNA鑑定が誤った方法で行われていたことも指摘されています。4兆7000億分の1の確率も実測ではなく、出現する型のパターンを乗じた値に過ぎません。指紋照合と違い、技術を習得した専門家が、科学的に信頼される方法で、日々の科学技術の発展を加味しながら行う必要がある点で、現在の鑑定方法も決して普遍的なものではありません。ですから、一度なされた鑑定結果を過信せず、裁判所は、当事者の言い分に耳を傾け、再鑑定に躊躇(ちゅうちょ)しない態度が求められます。足利事件では、上告を棄却した最高裁判所も、再審請求を棄却した宇都宮地方裁判所も、DNA鑑定神話を過信したせいでしょうか、再鑑定を認めませんでした。そのことが菅家さんを苦しめる一方で、真犯人を利するという二重の過ちを犯したのです。
(関連項目)
→鑑定