寡占とは、少数の企業がすべての財・サービスを生産する市場や状況を指す。企業数が十分に多くプライス・テイカー(price taker)の仮定が満たされている完全競争市場(perfectly competitive market →「完全競争」)や、企業が1社しか存在しない独占(monopoly)とは大きく異なり、企業間の戦略的な相互依存関係を明示的に分析しなければならない。このため、寡占問題には長らく首尾一貫した分析ツールが存在しなかった。しかし、1980年代から、戦略的状況をうまく分析することができるゲーム理論が経済学で積極的に応用され始め、これを契機として寡占市場の研究が一気に花開くことになる。故ジャン・ジャック・ラフォン(Jean-Jacques M. Laffont 1947~2004)とともに、この新しい流れを牽引したフランス人経済学者ジャン・ティロール(Jean Tirole 1953~)が、2014年にノーベル経済学賞を受賞した。
寡占の代表的な数理モデル(しばしば寡占モデル〈oligopoly model〉と呼ばれる)としては、各企業が生産量を同時に決定するクールノーモデル(Cournot model)、順番に生産量を決定するシュタッケルベルクモデル(Stackelberg model)、数量ではなく価格を同時に決定するベルトランモデル(Bertrand model)などが挙げられる。寡占市場への理解は、企業の吸収・合併やカルテル、技術開発投資や競争排除的な企業行動の分析などにおいても欠かせないため、競争政策(competition policy)との結びつきも強い。また、寡占理論は企業の最適な戦略や意思決定について明示的に扱うことから、産業組織論(industrial organization)や経営戦略(management strategy)といった分野における中心的なトピックでもある。ティロールらの貢献によって理論的に大きな変貌を遂げた産業組織論は、それまでの古い枠組みとは区別されて新しい産業組織論(new industrial organization)と呼ばれることも多い。