所得は上がらず物価のみが上昇する状況のことで、アベノミクスによるインフレ誘導政策で起こり得ると懸念されている。ここでの物価とは、消費者物価指数(CPI)やGDPデフレーターの動きを意味するが、両者の動きは燃料などの輸入価格の上昇に対する国内物価への転嫁状況により異なり、「悪いインフレ」の意味も違ってくる。CPIは企業と消費者間の取引価格の加重平均値であり、CPIのみの上昇は、企業にとっては製品の産出価格の上昇を意味する。したがって、企業の投入価格である人件費(つまり消費者からみれば所得)が上昇しない場合、消費者にとって実質的な所得低下を意味することから「悪いインフレ」となる。一方、GDPデフレーターでは、指数が上昇するとインフレ、低下するとデフレを示すが、輸入物価の上昇を100%国内で価格転嫁できない場合にも指数が低下する。この場合、GDPデフレーターが低下しようとも、交易条件の悪化によって国内所得が海外に流出する点で「悪いインフレ」と評価されることになる。