欧州連合(EU)の金融市場のマクロの健全性と個別金融機関のミクロの経営状況を把握する役割をもつ欧州銀行監督機構(EBA)は、2011年にヨーロッパの91行を対象として、ユーロ圏で2年間に4%の景気の下振れが続き金融市場が変調するとのシナリオの下、資産査定(ストレステスト)を行った。普通株や内部留保など狭義の中核的自己資本(コアティア1)が5%を下回り、不合格となった銀行は8行に上り、資本増強が義務化され、自力での資本調達が困難な場合、各国政府の公的資金が投入された。ところが、11年10月に、ストレステストで健全であると評価され合格していたフランス・ベルギーの大手銀行デクシアが私的整理され、受け皿である「バッドバンク」に不良債権が切り離され、解体・国有化されることになった。デクシアはギリシャやポルトガルの国債を大量に保有していたために、資金繰りが悪化していた。
実際、国際通貨基金(IMF)の推計によると、PIIGS(ポルトガル・イタリア・アイルランド・ギリシャ・スペイン)の債務不履行(デフォルト)により国債が値下がりする場合、 EU域内の銀行が被る損失は、21兆円にも上るとされる。銀行が他行から資金を借りる際の金利が上昇し、代表的な指標であるロンドン銀行間取引金利(Libor)が高水準に達した。また、12年1月から3月にかけて大量の償還を迎える銀行の社債のために、借り換え債を発行することが困難な状況にあったが、12年に発行する社債には政府保証を付けることになった。また、ヨーロッパの信用不安はアメリカにも波及し、各行の経営破たんの危険性を示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率が、信用リスクを反映して、アメリカの大手銀行などについて急上昇した。
欧州銀行の信用不安の背景には、欧州各行がヨーロッパの他国の国債を大量に保有していること、また欧州銀行が、銀行の資金繰りを安定させる預金でなく、アメリカのマネー・マーケット・ファンド(MMF)を主な出し手とする市場からの資金調達に依存していることが考えられる。信用不安に対してEUは、第1に、金融機関の資本増強を図り、狭義の中核的自己資本比率で9%以上を基準とし、必要な資本増強額として最大10兆円を見込んでいる。第2に、欧州金融安定化基金(EFSF)の機能を再拡充し、財政悪化に直面する国の国債の買い支えに寄与させる。なお、邦銀のヨーロッパ重債務国向けの投融資は限定的であり、信用不安の邦銀への影響は軽微であると見られる。