21世紀に入って台頭した新しい貿易理論の呼称。伝統的な貿易理論であるリカードの比較優位の理論、ヘクシャー・オリーンの定理などは、国家間、産業間の貿易を生産技術や生産要素の比較優位性で説明した理論だった。しかし、現実には、たとえばアメリカと日本のように、似たような構造の国同士が似たような製品を生産しながら、活発に貿易を行う状況があり、これを説明したのが、1980年代以降に登場したポール・クルーグマン(Paul Krugman)などによる新貿易理論(new trade theory)であった。新貿易理論では、同じ産業内でも製品の多様性があり、消費者は製品の多様性が増えることで満足度が高まるとした。この状況下では、企業はそれぞれに優位性のある特定製品に特化し規模の経済を追及(収穫逓増)する。一方で自国にはない製品は輸入が行われるので、同じような構造の国家間、産業間でも貿易が発生する、と説明している。これらの理論は、各産業では生産性は等しいとの前提があったが、企業データの解析が進むと、同じ産業内でも企業には生産性や規模に大きな違いがあり、輸出企業は生産性の高いごく少数に限られるという事実が分かってきた。新々貿易理論は、マーク・メリッツ(Marc Melitz)などにより、この個々の企業の異質性に着目して新貿易理論を発展させたものである。輸出には固定費用がかかると想定し、一定水準を超える生産性をもつ企業のみが固定費用を賄え、利潤を得ることができる。水準以下の企業は固定費用を賄えず、輸出できない、あるいは輸出から撤退し、国内市場のみで活動することになる。このように、個々の企業の異質性を分析することから、異質な企業モデル、企業の異質性モデルなどとも呼ばれる。また、貿易の自由化(貿易障壁の低下)は市場競争を高め、産業の生産水準を高める方向に働く。その結果、低生産性企業は市場から退出し、国全体の平均生産性が上昇、自由化は例えば関税の低下など固定費用が下がることから、輸出企業は輸出による利益を一層享受できるようになる。