2007年夏ごろから表面化したアメリカの住宅ローンの不良債権問題(→「サブプライムローン」)が深刻化する中で、08年9月のリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとして、主に欧米の多数の金融機関が深刻な資金調達難に陥ったために発生した金融危機。当初、サブプライム問題はアメリカの住宅ローン市場の問題として限定的に受け止められていたが、アメリカの住宅ローンは証券化されて世界中に販売されていたため、アメリカだけでなくヨーロッパの金融機関も巨額の損失を発生させた。08年3月にはアメリカ5位の投資銀行であるベア・スターンズが、さらに同年9月には住宅金融公社であるファニーメイ、フレディマックが破綻に瀕し、アメリカ政府はこれらの金融機関を公的資金を使って救済した。これによって、金融市場に「大手金融機関の破綻は避けられるのだろう」という安心感が生まれていた。しかし08年9月15日にベア・スターンズよりも大規模な投資銀行、リーマン・ブラザーズの経営危機が明らかになり、市場に激震が走った。アメリカ政府はリーマン・ブラザーズの経営危機を救済せず、市場がtoo big to fail(規模が大きすぎてつぶせない)と見なしていた金融機関を破綻させたことで、金融危機を悪化させてしまった。すなわち(1)金融機関株を中心とする株価の急落、(2)サブプライム関連証券のさらなる値下がり、(3)信用リスクを売買するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ credit default swap)市場での信用保証料の急激な上昇、(4)リーマン関連の証券を組み込んだMMFの元本割れ、などが発生した。さらにリーマン・ブラザーズと連鎖して、CDS市場で信用保証を大量に行っていたアメリカ最大の保険グループAIGの信用不安も深刻化した。
大手アメリカ金融機関の相次ぐ経営危機により、欧米の銀行間資金貸借市場が全面的な閉塞状態に陥った。ほとんどの欧米の金融機関は他の金融機関や企業に対する資金供給を急激に減少させ、アメリカ国債など安全資産への資金シフトが激化した。この結果、アメリカ政府の短期国債金利は、1940年1月以来となる実質ゼロ%にまで下落した。
危機の深刻化を受けて、(1)アメリカ政府はAIGに対する金融支援を決定し、(2)投資信託であるMMFに対する政府保証制度を導入、さらに(3)政府による7000億ドルを上限とする住宅関連証券の買い上げ措置を発表した。2008年10月に連邦議会が7000億ドルの金融危機対策法案を可決すると、アメリカ財務省は資金使途を住宅関連証券の買い上げから、大手金融機関に対する資本注入に変更して、銀行、投資銀行等の救済を行った。さらにアメリカの中央銀行である連邦準備制度は、同年12月に市場金利を実質ゼロ%前後にまで引き下げる、金融緩和措置を行った。また金融機関の経営悪化と不動産価格の下落に直面したヨーロッパ諸国でも、大幅な金利引き下げが行われた。