自分の属する「くに」に対する愛着から生じる感情と態度。ナショナリズムと大きく重複するが、後者が近代国民国家の形成と発展を前提にするのに対して、愛国心は国民(ネーション)の成立に先行している。たとえばヨーロッパ古典古代の「愛国の勇者」の説話などがルネサンスを通じて復活し、アメリカ革命、フランス革命における急進勢力は「愛国派」と名乗った。思想史的には、イギリスのボーリンブローク卿の著書「愛国王の理念」(1738年)が先駆的な著書とされている。そこでは国民の自由と統一を図る愛国王のみが真の国王とされた。この著書がフランス語に訳され、やがてルソーにおいて自由と愛国の観念が結合され、フランス革命の中心的なスローガンとなった。ドイツや日本のように国民国家の形成において遅れた国では、たとえば明治初期日本の「忠君愛国」のスローガンに見られるように君主主権と対外膨張の方向に利用されたが、それでも初期には福沢諭吉などに見られるように愛国は自由の契機と結びついていた。愛国心は家族や郷土のような身近な集団への愛着に由来するとされるが、近代国家の発展とともに自然共同体的への愛着は弱まり、国民教育を通じて国の伝統、歴史、使命感などの意識を国民に注入し、さらには国歌や国旗を通じて愛国心を強めようとする。愛国心に発する自己犠牲は国民的模範とされ、「非国民」「売国奴」が排斥と攻撃の対象となる。愛国心が「悪党どもの最後の逃げ口上」(最初の英語辞典編纂者ジョンソンの定義)、排外主義、人権差別の源泉とされるゆえんでもある。