ケネス・アロー(Kenneth J.Arrow)の「社会的選択と個人的評価」(1951年)は、公共選択論の先駆けとなる理論として有名で、彼がノーベル経済学賞を受賞したこともあって、その後の政治・経済理論に大きな影響を残した。3人の投票者がA、B、C、の三つの選択肢の選好順位を投票したとしよう。BよりAを選ぶのをA>Bと表現するとして、1人がA>B、B>Cを好み(したがって論理的にはA>Cを選んだと推測できる)、2人目がB>C、C>A(同じくC>A)、3人目がC>A、A>B(同じくC>A)を好むとしよう。その場合、この3人の社会ではA>B、B>Cを2対1の多数で好むと考えられる。したがってA>Cを好まねばならないはずであるが、3人のうち2人は、推定される第三の選択ではC>Aを好んでいるのである。普通、多数決では、われわれは一つの論点についての賛否、つまり二者択一で決めているが、三つ、ないし三つ以上の価値に優先順位をつける場合には、個人の選好から合理的な集合的選択を導き出すのは理論的に不可能であることを、ケネスは証明したのである。当時支配的な社会福祉国家論では、「市場の失敗」を政府の財政政策で補填(ほてん)できるとされていたが、彼の「不可能性定理」は「政府の失敗」を証明し、公共選択論への道を開いた。