古代に形成された文明を継承しながら、その文明の地域に巨大な人口と国力を備えた国家をいう。現代では特に中国を指して用いられる用語。インドを指して用いられることもある。古代にはいわゆる大河文明があった。揚子江と黄河の流域の中国文明、ガンジス川とインダス川の流域のインド文明、ナイル川流域のエジプト文明、チグリス川とユーフラテス川の流域のメソポタミア文明の四つが知られているが、後の二者は後継国家のエジプトとイラクが政治的統一性を欠いていることから、中国とインドだけについて用いられるのが普通である。
ヨーロッパ大陸にも、古代のギリシャとローマの文明とユダヤ‐キリスト教を共有する文明が存在するが、ヨーロッパは政治的には数十の国家に分裂することになった。それに対して中国では、紀元前3世紀に秦王朝による政治的統一が達成され、秦そのものは短命に終わったがそれに続いて漢王朝が統一国家を再建し、この秦漢文明の下、中国は一つ、また一つでなければならぬという意識が確立する。そして異民族支配の王朝が数度成立するが、征服王朝は文化的には中国化された。そして1949年の中国革命で成立した、漢民族が90%以上を占める中華人民共和国は、中国文明を継承する文明国家であると自負している。また47年にイギリスから独立したインド連邦共和国は、14の主要言語とヒンドゥー教とイスラム教の対立を抱え込みながらも、その人口と潜在的な経済力によって、中国と並ぶ文明国家として存在している。17世紀ヨーロッパに成立したいわゆるウエストファリア体制の国際秩序観念においては、すべての国家は国の大小を問わず対等な主権国家であるとされ、その原則は南北アメリカ大陸に、また第二次大戦後に独立を達成したアジアとアフリカに広がった。しかし中国、インドの文明国家の対内・対外関係の行動様式は、この伝統的な国際法観念の下における国家の行動様式とは、明らかに異なっているようである。