従軍慰安婦とは、日中戦争および太平洋戦争の過程で、現地女性の強姦(ごうかん)防止、兵士の慰安などを目的に広範な地域に設立された慰安所において、日本軍兵士への性的奉仕をさせられた女性たちを指す。1990年代以降、特に日本と韓国との間で、こうした女性たちへの謝罪と補償をめぐる問題が浮上した。65年の日韓請求権協定で補償をめぐる問題は決着済みだとする日本政府と、従軍慰安婦問題は未決着だとする韓国政府との間で対立が続いた。日本では、95年「アジア女性基金」を設立し、民間主導の基金で補償を行おうとしたが、韓国では、日本政府の責任を認めないものだとして肯定的には受け止められなかった。その後、2011年8月の韓国憲法裁判所で、こうした解釈の違いを放置したまま交渉を行わない韓国政府の姿勢は違憲だとする判決が出されたのを受け、韓国政府は日本政府との間で交渉に取り組んだ。その間、同年12月にソウルの日本大使館前に従軍慰安婦を象徴する「少女の像」が建てられたことに対して日本政府が抗議した。同月の日本の衆議院議員総選挙で成立した安倍晋三政権と、慰安婦問題に関して日本側の前向きな取り組みを要求する朴槿恵(パク・クネ)政権との間で緊張が持続したが、日韓国交正常化50周年にあたる15年末の12月28日に、慰安婦問題に関する日韓政府間の合意が発表された。慰安婦問題に関する責任を日本政府が認め、安倍首相が「お詫びと反省」を表明、韓国政府が設立する基金に日本が政府予算から10億円を拠出する代わりに、韓国政府は、この問題の「最終的かつ不可逆的な解決」の認定、国際社会における非難や批判の自制、「少女の像」の移転のための努力を行うことに合意した。この合意に対して当事者の元慰安婦ハルモニ(ハングルで「おばあさん」の意)や挺身隊問題対策協議会(挺対協)などの運動団体は、当事者に何の相談もなく一方的に合意したこと、「最終的かつ不可逆的に」解決したというのは日本に譲歩し過ぎであるなどと批判した。さらに合意1年後の16年12月には釜山の日本領事館前にもソウルと同様の「少女の像」が突如として設置されただけでなく、合意の当事者である朴槿恵大統領が弾劾され、その後、合意に批判的な文在寅(ムン・ジェイン)政権の成立(17年5月)に伴って、合意自体が揺らぎかねない状況が続いた。ただし、文在寅政権は、合意に関する検証結果を受けて、合意に関する再交渉はしないが、合意によって真の問題解決には至っていないとする新方針を、18年1月9日に発表した。この発表に対して安倍政権はその新方針を批判し、合意の履行を重ねて韓国政府に要求すると表明した。2月9日の平昌(ピョンチャン)オリンピック訪問を機会とした日韓首脳会談でも、合意をめぐる日韓の平行線は持続した。