1965年日韓国交正常化とともに、植民地支配に起因する請求権をめぐる問題を解決するため、日韓請求権協定が締結された。しかしその後、補償にかかわるすべての問題は解決済みであり、未払い賃金などに対する請求権は消滅したとする日本政府や企業の主張に対して、韓国では強制徴用などにかかわる未払い賃金の支払いを求める訴訟が相次いだ。従来の判決は日韓請求権協定の締結によって解決済みとする立場が支配的であったが、2012年5月の韓国最高裁判所判決では、日韓請求権協定の前提となる、日本の植民地支配を合法とする立場は韓国の歴史観とは相いれないことを明確にし、未払い賃金などに関する韓国人の請求権は消滅していないこと、したがって日本企業に支払い義務があることを認める判決を下した。この判決の効力は日本には及ばないが、日本企業が請求に応じない場合には韓国内にある日本企業の財産の差し押さえなどに道を開くものであるだけに、日韓の政治経済関係にも影響を及ぼす可能性がある。韓国政府の従来の立場は、協定の対象外として、従軍慰安婦、在韓被爆者、サハリン帰還者などの限定された問題を主張するのみであっただけに、この判決は、韓国政府の既存の立場とも異なるものであり、韓国政府の今後の対応が注目される。