2012年8月の李明博(イ・ミョンバク)大統領の「竹島上陸」によって険悪化した日韓関係は、従軍慰安婦問題に関する日本側の前向きな取り組みを要求する朴槿恵(パク・クネ)政権と、この問題は法的には解決されたという立場を取る安倍晋三政権との間で、2国間の首脳会談が開催されない状況が続いた。さらに、韓国では、安倍首相は、13年12月の靖国神社参拝に象徴されるように、過去日本の植民地支配や侵略を反省しようとはしない「歴史修正主義者」であり、日本を「右傾化」させる指導者であるという否定的な評価が定着した。日本では、朴槿恵大統領は事あるごとに国際社会に向かって「日本は正しい歴史認識を持つべきだ」と主張、日本の「悪口」を言いふらす「告げ口外交」を行うという否定的な評価が支配した。14年3月、オランダ、ハーグの核セキュリティーサミットで、バラク・オバマ・アメリカ大統領の仲介で日米韓首脳会談が開催されたが、朴槿恵大統領のこわばった表情に象徴されたように日韓関係は改善の兆しを見せなかった。加えて、朴槿恵政権と習近平(シー・チンピン)政権との間で中韓関係が密接になり、韓国は歴史問題のみならず、日本の集団的自衛権行使を認める憲法解釈の変更など安保問題に関しても、中国と共闘して日本を批判するという姿勢を示した。一方の日本は「韓国の中国傾斜論」を国際社会に印象づけることで対抗した。そうした状況の中、1965年の日韓国交正常化から50周年となる2015年を迎えた。6月、両大使館主催の国交正常化記念式典に日韓両首脳が出席することを決断し、日韓関係の雰囲気を変えた。その後、8月の戦後70年安倍談話の内容は、欧米や中国に比べて韓国への配慮が欠けたものであったため、韓国政府や社会の不満は残ったが、それに対する露骨な批判を朴槿恵政権は自制した。日韓関係の悪化を懸念するアメリカの仲介もあり、さらに、9月の訪中で朴槿恵大統領が習近平主席を説得して3年あまり開催されなかった日中韓首脳会談をソウルで開催することに合意。その結果、日中韓首脳会談に続き、ほぼ3年半ぶりに11月2日、日韓首脳会談が開催され、そこで懸案であった慰安婦問題に関する協議に拍車をかけることに合意した。外務省局長級協議、さらに、谷内正太郎国家安全保障局長と李丙琪(イ・ビョンギ)大統領秘書室長との間の協議を経て、12月28日岸田文雄外相が訪韓、尹炳世(ユン・ビョンセ)韓国外相との間で日韓外相会談が開催され、慰安婦問題に関する日韓政府間の合意が発表された。慰安婦問題に関する責任を日本政府が認め、安倍首相が「お詫びと反省」を表明、韓国政府が設立する基金に日本が政府予算から10億円を拠出する代わりに、韓国政府は、この問題の「最終的かつ不可逆的な解決」の認定、国際社会における非難や批判の自制、ソウルの日本大使館前に建てられた、被害女性を象徴する少女像の移転のための努力を行うことに合意した。この合意に対して当事者の元慰安婦ハルモニ(ハングルで「おばあさん」の意)たちの批判は依然として強く、今後の状況は予断を許さないが、政府間で合意が形成されたことの意味は大きい。今後、険悪化した日韓関係の中で中断した安保対話において、いったんは韓国側のキャンセルによって挫折したGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の締結や、日本の安保法制に対する韓国側の理解を求めることなどが行われる必要がある。また、更新されなかった日韓通貨スワップ協定についても、その再開に関する韓国の経済界の強い要望もあり、議論されることになる。