朴槿恵(パク・クネ)大統領は2012年の大統領選挙時から「韓半島信頼プロセス」を政権の目玉政策として掲げた。「堅固な安保をもとに南北間の信頼を築くことで南北関係の発展と韓半島の平和定着を図り、ひいては統一基盤の構築を目指す政策構想」である。かつ、過去、金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が推進した和解協力政策、李明博(イ・ミョンバク)政権の原則重視の対北朝鮮政策が、共に北朝鮮の意味ある変化を引き出すことはできず、北朝鮮の核開発と挑発を阻止することに限界があったという認識に基づき、その両者の長所を活かそうとする、折衷主義的な側面を持つ。朴槿恵大統領は、2014年1月の新年記者会見で「統一テバク(大当たり)」という言葉を持ち出し、統一が韓国にもたらす利益を強調し、さらに3月、統一の基盤作りに向けた(1)離散家族再会事業の定例化と乳幼児などへの栄養支援、(2)北朝鮮の農畜産業など民生インフラ整備支援、(3)南北住民間の交流拡大を骨子とする「ドレスデン構想」を発表して、対北朝鮮政策を具体化しようとした。しかし、北朝鮮にとっては優位な力を持つ韓国による吸収統一の試みだという疑惑が拭えず、同年10月仁川アジア大会閉会式に北朝鮮のナンバー2である黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長が訪韓するという機会も活かされなかった。その後の1年弱、南北関係における可視的な変化はなかったが、15年8月4日、非武装地帯の韓国側で北朝鮮が仕掛けた地雷が爆発し、韓国の軍人が重傷を負うという事件を受け、韓国軍が韓国の体制優位を宣伝する放送を11年ぶりに再開するという報復措置を採った。これに対して、北朝鮮は、韓国が宣伝放送を中止しなければ「準戦時状態」に入ると宣言したため、一挙に軍事的緊張が高まった。22日から25日にかけて板門店で、韓国の金寛鎮(キム・グァンジン)国家安保室長と黄炳瑞軍総政治局長との間で断続的に高官会談が行われた結果、25日に南北共同報道文が発表され、危機が回避されただけでなく、韓国側が求めた離散家族再会を行うことに合意するなど、南北関係の進展に期待がもたれた(8・25南北合意)。北朝鮮が10月10日の党創建70周年記念日前後に、心配されていたミサイル発射などの挑発を行わなかったこともあり、10月に金剛山で南北離散家族再会が行われた。その後、11月の実務者会談を経て12月に開城工業団地で南北次官級会談が開催されたが、離散家族再会問題に重点を置く韓国側と、外貨獲得のために重要な金剛山観光再開問題に重点を置く北朝鮮側との間で、優先議題をめぐる合意が形成されず、南北会談は中断している。そうした中、16年1月6日に北朝鮮の4回目の核実験、2月7日にミサイル発射が行われることで、朴槿恵政権としては、韓半島信頼プロセスを事実上放棄し、開城工業団地の閉鎖に踏み切るとともに、金正恩政権の体制変革(レジームチェンジ)の可能性も示唆するようになった。(→「北朝鮮の核実験(2016年)」)