民主党のアピシット・ウェチャチワ党首(就任時44歳)を首相に、2008年12月に発足した反タクシン派政権。アピシットは、イギリスで育ちオックスフォード大学卒業後に政界入りした典型的なエリート。元首相のタクシンを支持する勢力(→「タクシン派」)と対立する反タクシン派は同年、市民組織「民主市民連合」(PAD)を中心に、反政府集会や首相府占拠、バンコクの国際空港占拠などによって、タクシン派のサマック政権に揺さぶりをかけた。退陣を拒むサマック首相は、テレビ番組の出演で違憲行為があったとの憲法裁判所の判決で失職。後継のソムチャイ政権も、連立与党が選挙違反で同裁判所から解党命令を下され崩壊した。これを受けて新首相に反タクシン派のアピシットが選出された。しかし、タクシン派市民組織「反独裁民主戦線」(UDD)は総選挙の洗礼を受けていないアピシットの退陣と総選挙を要求、10年5月までバンコクで2カ月にわたり反政府行動をつづけた(→「バンコク騒乱」)。アピシット政権はこれを武力で押さえ込んだため、国民間の亀裂はさらに深まった。両派の対立の合法的な決着と国民和解をめざして11年7月に行われた総選挙で、与党の民主党が敗北し、アピシットは退陣した。