イラクとアフガニスタンの対テロ戦争に専念してきたアメリカが軸足をアジアに戻すとして、2011年にオバマ大統領が打ち出した新しい安全保障戦略。中国が南シナ海などで軍事的な海洋進出を図り、陸と海でシルクロード経済圏構築を図る「一帯一路」戦略により、経済でも周辺国を取り込もうとしているのに対して、日本をはじめとする同盟ネットワークの再強化と環太平洋経済連携(TPP)を軸に、アジア太平洋パワーとしてのアメリカの指導力を維持する狙いがある。オバマ大統領は同年11月にオーストラリアを訪問し、「太平洋国家として地域の将来に大きく、長期的な役割を果たす」と演説。同国北部に米海兵隊や空軍をローテーション展開し、その規模を拡大させていくと発表した。続いてインドネシアで開かれた東アジア首脳会議(EAS)にも、アメリカ大統領として初めて出席。南シナ海領有権問題への関与を改めて表明した。また12年1月には国防省が、20年までに向けた新しい「国防戦略指針」を発表。「米軍展開の重心をアジア太平洋地域に再調整する」と明記し、海軍力も太平洋重視に切り替え、20年までに兵力の6割をこの地域に配備する方針を示した。こうしたアメリカの「アジア回帰」(リバランス政策)は、少数与党でレイムダック状態のオバマ政権とあって、掛け声倒れではないかという声も強いが、ミャンマーの民主化(→「ミャンマー総選挙(2015年)」)やベトナム、フィリピン、インドネシアのTPP参加(→「東南アジアとTPP」)など、成果を挙げた面もある。16年2月には東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳を招いて、初のアメリカ・ASEAN首脳会議をカリフォルニア州ランチョミラージュで開催。南シナ海について非軍事化や航行の自由を保障する原則を盛り込んだ「サニーランズ宣言」を発表した。