ミャンマー西部ラカイン州(旧アラカン州)のイスラム系少数民族ロヒンギャ族約60万人が2017年8月、武装組織とミャンマーの治安部隊との衝突をきっかけに隣国のバングラデシュに避難・流入した。8月25日、ナイフや農具、竹槍などで武装した数百人が30カ所以上の治安施設を襲撃し、双方で70人以上(市民を含む約100人ともいう)が死亡した。ロヒンギャ武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」が声明を出したため、ミャンマー政府はARSAを「過激派テロ組織」に指定し、軍による徹底した掃討作戦を開始。市民を標的にした殺害や性的暴力、村の焼き討ちなどが横行し、「国境なき医師団」の調べでは、犠牲者は25日からのひと月間で6700人以上に達したという。戦闘の拡大で多数のロヒンギャ住民が隣国バングラデシュに脱出し、ユニセフなどによればその数は17年末までに65万人を超えた。人道危機を招いたとしてミャンマーに各国の非難が集中。国連総会決議や安全保障理事会の議長声明が採択され、アメリカ政府も「民族浄化」だとして軍の幹部を制裁対象にした。アウンサンスーチー国家顧問(→「NLD政権」)は同年9月、流出したロヒンギャの帰還を受け入れる方針を示し、11月にはバングラデシュ政府との交渉で帰還の実施に合意した。しかし、身元が確認された難民に限定され、帰国後の市民権付与もなく、帰還を拒む難民も多い。また、現地では散発的に衝突が続いていると伝えられ、18年1月にもARSAが国軍を襲撃する事件が起きている。また、軍の作戦だけでなく、ラカイン州ではアシン・ウィラトゥを指導者とする仏教徒過激派組織「969運動」などもロヒンギャ排斥の扇動を続けており、安全な帰還の見通しは立っていない。