2008年11月26日にインド最大の都市ムンバイで起きた同時テロ事件。外国人を含む172人の死者を出した。事件はパキスタンのパンジャブ州南部に根拠地をおく武装組織ラシュカレ・タイバ(「純粋者の軍隊」の意)の養成した10人の実行部隊による犯行であり、同組織は数年前からムンバイ市内の情報を収集するなど周到な準備をしていた。その狙いは、インドの経済中枢に打撃を与えるとともに、アフガニスタンにおけるタリバン、アルカイダ勢力の掃討作戦を妨害するために印パ関係の緊張を引き起こすことにあった。インド国内では、越境攻撃による過激派根拠地の爆撃といった強硬な主張も出るほど、パキスタン政府への不満が高まった。唯一の生き残り実行犯にはボンベイ高裁で死刑判決が下された(12年11月21日執行)。一方、パキスタン政府は、ラシュカレ・タイバの幹部や、カシミール分離主義の武装団体であるジャイシェ・ムハンマド(「ムハンマドの軍隊」の意)の最高指導者らを拘禁し、ラシュカレ・タイバの軍事部門指導者ザキウル・ラフマン・ラクヴィらの裁判を開始したが、インドの治安当局からの証拠提供を求めるなどして、実質的な審理はほとんど進んでいない。パキスタン政府自身もアフガニスタン国境地域のタリバン支持勢力による自爆テロの脅威に絶えずさらされ、一部には軍の情報機関である三軍統合情報部(ISI ; Inter-Services-Intelligence)自体が、これらラシュカレ・タイバなどの組織と密接な関係を維持しているとみられるために、テロの根絶はもとより、ムンバイ同時テロ事件関係者の処分は、軍の圧力下にあるパキスタンのザルダリ政権にとっては極めて困難な課題である。