ホワイトハウスは2010年5月、アメリカの安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」をオバマ政権として初めて発表した。国家安全保障戦略が発表されるのは、ブッシュ前政権が02年9月に発表して以来8年ぶり。このいわゆるブッシュ・ドクトリン(Bush Doctrine)は、アメリカと世界が直面する最大の脅威は、大量破壊兵器(WMD)を開発している「ならず者国家」(→「テロ支援国家」)や、大量破壊兵器の保有を企てる国際テロ組織であるとして、必要な場合には自衛権を行使して先制攻撃や単独軍事行動を辞さないというもので、イラク戦争で初めて適用された。ブッシュ・ドクトリンは歴代政権が明言を避けてきた先制攻撃容認を国家戦略として正式に認知したもので、冷戦時代以来の戦略転換を意味した。これに対しオバマ政権の安保戦略は、国際協調を重視する立場から武力行使の前に他の手段を尽くすとして、武力行使は最後の手段と位置づけており、アメリカの安保戦略が再び大きく転換したことになる。