北米自由貿易協定(NAFTA)が発足した1994年1月1日にメキシコ南部のチアパス州で蜂起した農民の武装組織。チアパス州はメキシコで最も貧しい地域であり、先住民が多く住む。メキシコ革命による改革はほとんど実行されず、古い経済社会体制が残った。NAFTA発足後は輸出農産物生産が発展したが、伝統的農業は衰退し、下層大衆、とくに先住民農民が極貧状態に陥り、人権侵害も激しくなった。EZLNの名称はメキシコ革命(1910~17年)の農民指導者E.サパタにちなむ。蜂起がNAFTA発足の日に行われ、また蜂起当日に発表された「ラカンドン密林宣言」にも示されているように、最大の目的は先住民族の復権と新自由主義体制(→「ネオリベラリズム」)の転換にある。EZLNはまた、(1)インターネットを介して主張を広めることにより世界的な支持を獲得し、それを背景に政府を交渉の場に引き出したこと、(2)従来の革命とは異なり、国家権力を握ることを目指さず、自治を求めたことでも注目される。EZLNは先住民主体の組織だが、理論的指導者マルコス副司令官の存在は有名になった。しかし、97年12月にはチアパス高地にあるチェナルホ行政区のアクテアル村で準軍事組織による住民の虐殺事件が起きている。またフォックス前政権以来、政府軍の軍事攻勢も激化しており、一時は「カラコル」(カタツムリ)と呼ばれる住民の直接参加を基礎とする自治政府も組織されたが、現在では再び地下活動に移っている。