キリスト教は貧しい人々の解放のための宗教であると考えるカトリック神学。従来、カトリックは支配階級の道具と批判されていただけに、第二の宗教改革ともいわれる。1962~65年の第二バチカン公会議(→「カトリック」)において社会問題への積極的取り組みが決定されたのを受けて、68年の第2回ラテンアメリカ司教協議会総会(メデジン会議)で、「教会は貧者のためにある」と決議されたことで広く普及した。71年にペルーのグティエレス神父により初の体系的理論書「解放の神学―見通し」が出されている。とくに70年代から80年代の「軍事政権時代」には、その影響を受けた貧しい農民やスラム住民などが土地闘争や反体制運動に積極的に参加した。サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)が指導した79年のニカラグア革命の成功でもカトリック信徒が大きな役割を果たしている。そのため、ローマ教皇庁は解放の神学の批判に転じ、84年には教理聖省から批判文書「解放の神学のある側面に関する指針(ラッツィンガー教書)」が出された。解放の神学は疎外された者の復権を基本理念としており、そこから黒人の神学、ヒスパニックの神学、フェミニズムの神学などさまざまな潮流が成立している。ラテンアメリカは世界で最もカトリック信徒の多い大陸だが、90年代以降解放の神学に対抗する形でファンダメンタリズム、とくにプロテスタントの流れを汲む精霊派のペンテコステ派が急速に拡大している。