カスピ海は旧ソビエト連邦(ソ連)諸国であるロシア、カザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンとイランの間に位置する世界最大の塩湖である。ソ連時代にイランとの間でカスピ海の法的地位と利用の問題について協定が結ばれていたが、ソ連の解体と沿岸4カ国の独立後、豊富な炭化水素資源がカスピ海底に眠っていることから、特に、海底の境界画定について改めて5カ国で争われることになった。1990年代は5カ国それぞれが独自の主張を展開したが、98年にロシアとカザフスタンの間で境界画定と資源開発に関する協定が結ばれ、2002年には両国それぞれとアゼルバイジャンの間で協定が結ばれた。3国は海岸からの中間線での海底の分割を主張しており、同時に水圏については共同利用を提案している。トルクメニスタンは当初、ソ連時代に定められた、アゼルバイジャン側に向けて突き出した境界を踏襲するよう主張してきたが、近年は海岸からの中間線での境界画定に理解を示すようになっている。ただし、海岸線の「どこ」を起点にして中間線を引くかでアゼルバイジャンと合意ができておらず、係争海域に大規模な石油・ガス鉱床が存在することから、合意の見通しは立っていない。これに対し、イランは5カ国2割ごとの等分を一貫してきた。意見の隔たりは大きかったが、14年9月にロシアのアストラハンで開かれた環カスピ海諸国首脳会合の場で、沿岸から15カイリの帯状の領域を各国の領土とし、さらに10カイリ先まで各国の排他的漁業権が認められるということで妥結した。それ以外のカスピ海中央の水域は5カ国の共同管理となるが、懸案の天然資源の扱いについては継続審議となった。カスピ海底の境界画定を含む法的地位の問題や、その他の分野での協力の問題については、次官級、大臣級、首脳級と定期的な会合が開かれている。カスピ海内部ではすでにイランを除く4カ国で本格的な資源開発が進展しており、日本の国際石油開発帝石や石油天然ガス・金属鉱物資源機構が参画するカザフスタン沖のカシャガン油田での原油生産は13年9月に始まった。