2015年10月、安倍晋三首相は中央アジア5カ国を歴訪した。日本の首相が中央アジアを公式訪問するのは、小泉純一郎元首相がウズベキスタンとカザフスタンを訪問した06年以来のことである。キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンには日本の首相として初の公式訪問となった。この歴訪は安倍首相の「トップ・セールス外交」の一環であり、総額3兆円規模(ただし、そのうち、2兆2000億円はトルクメニスタンでの石油・ガス加工を中心とする案件)の事業について議論された。経済規模の大きいトルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタンではビジネス・フォーラムが実施され、安倍首相と各国大統領が共に参加した。総じて、日本による中央アジア5カ国重視の姿勢を示すことに成功したが、これは「一帯一路」政策などを通じて地域での存在感を強める中国や、伝統的に地域への政治的影響力を有するロシアへの牽制を意味するわけでは必ずしもない。「中央アジア+日本」対話を主導するなど、日本は中央アジア5カ国の地域統合を一貫して支援しており、これは自国を中心とした地域での影響圏の構築や維持を志向する中国やロシアの立場とは異なる。各国の投資環境が整いつつある中で、日本の得意分野を通じた経済・技術協力関係の強化を政府として支援することに今回の歴訪の意図があったと考えるべきである。