2002年4月からの完全学校週5日制と新学習指導要領の実施に伴い「学力低下」論が強まるなかで、文部科学省は学力低下の真偽や学力の定着度を調べるため、02年と04年にそれぞれ小学5年生から中学3年生までの45万人を対象に全国学力調査を実施し、02年と03年には高校3年生10万人を対象に同調査を実施した。さらに07年4月には43年ぶりに、義務教育の成果の検証と質を保証する仕組みを構築するためと称して、小6と中3の全児童生徒(私立の約半数と愛知県犬山市を除く)を対象に国語と算数・数学の全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)が実施された。08年度、09年度も同様の方式で実施され、2年連続不参加だった犬山市も、交代した市長の意向で09年度は参加した。しかし09年9月に発足した民主党政権の方針により、全員参加の悉皆(しっかい)調査は弊害が多いとの判断や、経費節減を図る観点から、10年度は抽出率約30%(小25%、中42%)の抽出調査と希望利用方式に切り替えられたが、抽出対象校と希望利用校の合計で公立校の75%、国立校の80%、私立校の24%が参加した。11年度は東日本大震災の影響を受け、利用を希望した学校には問題と解答を配布したものの、文部科学省による集計・分析はなされなかった。12年度は、国語、算数・数学に加えて理科も含め、約30%の抽出調査を行う予定であり、さらに13年度は悉皆調査を行う予定となっている。同テストはA問題(「知識」学力)とB問題(「活用」学力)の2部構成となっているが、これまでの4回とも、国語と算数・数学のいずれにおいても、小6と中3の両方で、B問題の平均正答率がA問題のそれより約5~20数ポイント低く、「活用」学力が弱いと言われている。しかし、A問題とB問題の相関は、算数・数学でも、小6でも中3でも、0.7~0.8強とかなり高い値になっていることなどもあって(特に算数・数学で高く、小学校より中学校で高い)、両者は本当に違う学力を測っているのかどうか、「活用」学力を高める努力も重要だが、「知識」学力の底上げ・向上が「活用」学力の向上につながるのではないかといった点で、意見が分かれている。文部科学省は同テストの結果の取り扱いについて「序列化や過度な競争につながらないよう十分配慮し…個々の市町村名・学校名を明らかにした公表は行わない」ようにとの要請を行ってきたが、実施前から危惧(きぐ)されてきたように、情報公開条例などに基づき市町村別や学校別の結果の開示を求める動きもあり、鳥取県では一部小規模校を除いて学校別の結果を開示した。また、大阪府や秋田県などは知事の要請で市町村別結果を公表し、大阪府は知事の意向でテスト成績を上げるためにも反復学習などを重視するようになった。他方、教育委員会による学力調査も増えており(08年度には29都府県、15指定都市で実施)、学校選択制を導入している東京都荒川区や品川区などでは、学校選択の判断材料とするためにもテスト結果を学校別に公表しているが、全国テストとともに、地域間や学校間のゆがんだ競い合いや地域・学校の格差化・序列化につながるとの批判も多い。こうした動きは学習指導要領の掲げる新学力観・新評価観とも矛盾しており、また、テスト学力によって教育の成果を評価する新テスト主義の危険性を宿している。