2009年の総選挙により成立した民主党を中心とする連立政権の下では、高校授業料の無償化や教員定数の改善など主に教育条件の改善が進められ、それまでの自公連立政権の下で進められたラジカルな構造改革路線からの転換が起こったが、12年の総選挙により再び自公連立政権・安倍晋三内閣(第2次)が成立し、教育構造改革路線が再び台頭する傾向にある。総選挙に際して公表された自民党の選挙公約では、「6・3・3・4制」の再編・弾力化(「平成の学制大改革」)、教育委員会制度の抜本的改革、大学入試改革(センター試験の複数回化)や道徳教育の教科化による規範意識の醸成・向上などが掲げられたが、安倍首相は、教育再生実行会議を設置し、その第1回会議での挨拶において、「強い日本」を取り戻すためには「教育の再生」が「経済再生」と並んで最重要課題であると述べ、「世界のトップレベルの学力と規範意識を身に付ける機会」を保証するとのスローガンを掲げ、第1次安倍政権時の教育再生会議の諸提言も踏まえ、諸改革を実行していくとしている。しかし、そうした制度改革によって教育の真の再生・充実が達成されるものでないことは、理論的にも経験的にも明らかであり、また、これまでの教育基本法等の法令改正や種々の制度改革でもまだ不十分だと評価し更なる大改革を進める必要があるとしていることを見ても、ほとんど明らかである。それどころか、そうした必要性の根拠が曖昧(あいまい)で合理性や妥当性のない制度改革によって、教育の公正性・適切性や機能性(有効性)がかえって低下し損なわれることにもなりかねない。例えば、下村博文文部科学大臣は、大臣就任早々(1月)の記者会見で、学校週6日制への回帰を検討すると述べ、また、2月には全国学力テストの学校別結果の公表について14年度からは自治体の判断にゆだねるとの方針を明らかにした。前者は自民党政権の下で1992年から導入・拡大されてきたものであり、後者は自公政権下で2007年から実施されてきたが、文部科学省は、これまで一貫して、過剰な競争は教育をゆがめるとの理由で学校別・地域別の結果の公表は行わないように要請してきたところである。こうした事例にも見られるように、教育と教育行政の継続性・安定性や公正性・適切性を確保することが重要であるにもかかわらず、それらの要件が軽視され、従来と逆方向の政策が十分な審議・検討もなされないまま実施されるようでは、教育界の混乱やひずみがさらに拡大することになりかねない。政治の良識と誠実さ・賢明さが期待されるが、市民レベルでも、教育再生実行会議の審議内容・提言やそれらに基づいて具体化される改革・政策の動向を注視していくことが重要である。