日本の雇用については、現在、派遣労働者の問題が懸案になっており、安定的な雇用環境を整える必要がある。そのために、2011年度の税制改正で雇用促進税制を導入した。当初は適用地域を限定していなかったが、16年度の税制改正で、東京などの大都市圏を対象から除外する地方専用の税制に特化し、3タイプの税額控除制度とした。
18年度の税制改正では、16年度で創設した雇用情勢が特に厳しい同意雇用開発促進地域に係る措置を廃止し、この措置に伴う税額控除制度も廃止する。残りの2つの税額控除制度についても改正する。まず、就業の機会の創出や経済基盤の強化に貢献する特定業務施設を整備することを目的として、地方公共団体が内閣総理大臣から地方活力向上地域等特定業務施設整備事業を行う地域再生計画の認定を受ける。
次に、これに基づき事業者が実施計画を作成して、都道府県知事の認定を受けることが条件となる。対象となる地域は、(1)地方活力向上地域と(2)準地方活力向上地域。(1)の「地方活力向上地域」とは、集中地域以外の地域であり、かつ、その地域の活力の向上を図ることが特に必要な地域のこと。集中地域とは、産業、人口の過度の集中を防止する必要がある地域とその周辺の地域のこと。(2)の「準地方活力向上地域」とは、集中地域のうち、人口の過度の集中を是正する必要がある地域とその周辺の地域で、かつ、その地域の活力の向上を図ることが特に必要な地域のこと。具体的には、近畿圏の中心部と中部圏の中心部が該当する。
18年に地域再生法を改正し、(1)の地方活力向上地域に加え、(2)の準地方活力向上地域も加えることで、法人税でも税額控除の対象になった。さらに、都道府県知事の認定を受けるには、(3)集中地域から地方活力向上地域、準地方活力向上地域に移転して整備する事業(移転型)か、(4)地方活力向上地域内で特定業務施設を整備する事業(拡充型)であることが必要。この認定を受けた認定事業者が控除の対象になる。
税額控除は、移転型と拡充型のいずれにも適用する地方事業所税額控除と、移転型に限定して適用する地方事業所特別税額控除の2つがある。
対象となる雇用者は、役員、役員と特別の関係がある使用人、高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者以外の雇用保険法で規定する一般被保険者。改正後は、この特例が適用される適用対象特定業務施設のみをその法人の事業所とみなした場合における当期末の雇用者の数から前期末の雇用者の数を減算した数、つまり、前期に比べて増加した雇用者の数のうち、新規に雇用された有期労働契約以外の労働契約を締結している雇用者か、短時間労働者でない雇用者(特定新規雇用者)と、同じ法人内での転勤者数を合計した数が2人(改正前は、その法人全体の前期に比べて増加した雇用者の数が5人、中小企業者は2人)以上増加していること、当期の給与の支給額が前期の給与の支給額の2割増し(改正前3割増し)の額を超えること、雇用保険法の風俗営業などを除いた適用事業を行っていることなどを満たすことが要件になっている。
改正後の地方事業所税額控除は、まずその法人全体で、当期末の雇用者の数から前期末の雇用者の数を差し引いた増加人数の前期末の雇用者の数に対する割合である基準雇用者割合を求める。この割合により、次のいずれかの取扱いを適用する。1つは、基準雇用者割合が8%以上の場合、次は基準雇用者割合が5%以上8%未満の場合、最後がその他の場合。改正前は基準雇用者割合が10%以上の場合に限り優遇措置を講じていたが、改正後は基準雇用者割合を3区分してきめ細かな取扱いとする。基準雇用者割合が8%以上の場合の取扱いは、(5)60万円に、適用対象特定業務施設で新規に雇用された特定新規雇用者の数を掛けた金額が1つ。次は、(6)50万円に、適用対象特定業務施設で新規に雇用された雇用者の数から正規の従業員である特定新規雇用者の数を控除した残数である非正規雇用者の数のうち、当期に新たに雇用された雇用者の数(新規雇用者総数)の40%に達するまでの数に、他の部署から適用対象特定業務施設への転勤者の数を合計した数を掛けた金額。40%は非正規雇用者の全国平均を意味する。この(5)と(6)の2つの金額を合計した金額が税額控除額になる。ただし、法人税額の20%(改正前は30%)を限度とする。
地方事業所特別税額控除は、移転型の事業を行った場合に、地方事業所税額控除と別枠で認められる。具体的には、地方活力向上地域の場合は、30万円に、適用対象特定業務施設における当期末の雇用者の数から前期末の雇用者の数を差し引いた増加人数を掛けた金額を控除する。準地方活力向上地域の場合は、30万円を20万円として計算する。この場合も、法人税額の20%(改正前は30%)を限度とする。ただし、地方事業所税額控除または企業の地方拠点強化税制による税額控除の適用を受ける場合は、法人税額の20%からこれらの税額控除額を控除した残額が限度になる。(→「所得拡大促進税制」「企業の地方拠点強化税制」)